坂本龍一『L.O.L.』インタビュー | '00年11月10日号・前編






[※この号は3回に分けて紹介します]



■エクスプレス

FACE

坂本龍一

――このゲームのプロデュースを担当することになったきっかけを教えてください。
坂本 僕自身、最初からゲームに興味を持っていたんです。でも、ゲーム業界の人を具体的に知っていたわけではなかったし、共通の話題を持っている人がいるとは思っていませんでした。そんなとき、知人にこの『L.O.L. (LACK OF LOVE)』の開発をしている、ラブデリックの西君を紹介されたんですよ。西君と東洋医学とか人間の身体についてとか、お互いの共通の話題をしているうちに、そういったテーマでゲームを作れないのってことになったんです。
――プロデュースするにあたって気をつけたことってありますか?
坂本 いままでのゲームって、戦ったり競い合うものばかりじゃないですか。そういった、ふつうのゲームにはしたくなかったので、 "戦わないゲーム" にしよう、と。戦わなくても、競争という原理を排除してもゲームになるのか。そこにいちばん興味がありましたね。
――いま、坂本さんは海外に住んでいらっしゃるそうですが、指示はどうやって出していたんですか?
坂本 西君とのやりとりのほとんどがそうだったんですが、eメールでやってました。
――坂本さんはいろいろな国に移動することがあるでしょうから、eメールでやりとりするのはたいへんだったんじゃないですか?
坂本 いろんな珍しい場所からメールが届くんで、西君は驚いていたみたいですよ(笑)。
――たとえば、どこからですか?
坂本 いちばんモンゴルが驚いてました。そのときは、都市部ではなく草原から送ってたんです。
――電源や電話回線はどうしたんですか?
坂本 そのときはオペラ、『LIFE』の取材に行っていたんですが、いっしょに来ていた新聞社の人が、通信衛星の装置を持っていたんです。でも、村には電源がなくて、1個だけあった発電機を使いました。
――その発電機を回してまで、eメールを送っていた、と。
坂本 またその発電機がすごく小さいもので、ぜんぜん、パソコンのバッテリーがたまらない(笑)。
――つねにeメールが送れる状況にあるんですね。
坂本 これはインターネットで購入したんですが、僕は世界各国仕様の電話アダプターと電源アダプターをいつも持って歩いてるんですよ。でも、電話のジャックって国によって違うから、電話アダプターだけで50個もあるんです。
――そんなに多くの機材を持っていたら怪しまれませんか?
坂本 空港でよく止められますよ。「職業はなんだ?」って訊かれて、「音楽家です」って答えると、「なんで音楽家がこんなもの持ってるんだ?」って(笑)。スパイと思われちゃうんですかね。ほかにも、電話線をカットして、ネットワークにつなぐキットも持ってるんです。なにが起こってもネットワークにつなげられるようにって。

――坂本さんは作曲とサウンドプロデューサーも担当されていますよね。音楽もeメールでやりとりしていたんですか?
坂本 音楽はラブデリックの事務所の近くのスタジオで作りました。曲ができあがると西君を呼んで聴いてもらってたんです。オープニングとか、一部の映像は、僕の曲のイメージやテンポに合わせて、作り直してくれたところもあったみたいですね。
――どういったところから発想をスタートさせましたか?
坂本 偏見かも知れないんですが、ゲームの音楽ってわりとつまらない印象があるんですよ。最近だとCD-ROMになったので、CDと同じ音が使われている。だから音質としては向上したんでしょうけど、チャカチャカとバックグラウンドで鳴っているだけ、という感じがして。なので、なるべくそこから外れて、ふだん自分が作っている音楽をハメていくと、違和感があっていいかな、と。その違和感がうまく出せたらいいな、って思って作りました。発想のしかたとしては、映画のサウンドトラックを引き受けたのと同じ気持ちですね。
――オープニングは見ましたか?
坂本 音楽がいいですよね(笑)。それは冗談ですけど、じつは、背景やパーツは見せてもらっていたんですけど、実際のオープニングムービーは、今日初めて見たんですよ。いままでビデオでしか見たことなかったから、本物を見てキレイなので驚きましたね。

――このゲームのテーマは、東洋医療から派生した "共生" だと言いますよね。悪いものも善いものとともに生きる、という。ゲームにするには難しいテーマですね。
坂本 いままでのゲームだと、戦って勝つことがいいこと、みたいな感じですよね。だから敵を倒すことが止められない。本来殺さなくてもいい敵まで殺してしまう。そういったゲームにはしたくなかったんです。でも、生きていくにはなにかを殺して食べなければいけない。それで僕らは最低限、食欲が満たされる程度にしよう、競争心を煽るようなものにはしないようにしよう、と。実際、たくさん餌となる生物を殺しても食べきれないでしょ? それで人間はそのあまったものを燻製にしたり塩漬けにしたりして、保存することを編み出したんだよね。人間はもともと狩猟民族だったわけだけど、つぎにいつ食料がとれるかわからない。だから保存する。でも、ライオンは狩猟動物なのに保存しないんですよね。人間というのは個体では狩猟することはできない。牙もないし力も弱いから。そういう個体としての弱さ、恐怖感から競争や必要以上の殺戮が発生しているんでしょうね。だからこのゲームで、敵を殺してもなんにも見返りがないのはとてもいいことだと思うんですよ。
――ところで、開発中に1回、できあがったバージョンを白紙に戻したことがあったそうですね。
坂本 そうなんです。テキストがあったりして、いまのバージョンとはまったく違うものだったんです。
――白紙に戻した理由はなんだったんですか?
坂本 なんだったんだろう(笑)。やっぱりテーマが難しかったのか、プレイしていておもしろさが伝わってこなかったんですよ。それで西君に "つまらないよ" といったら白紙に戻ったという。

――坂本さんはもう一度ゲーム作りに参加してみたいと思っていますか?
坂本 ええ、いつでも。僕がすごく影響を受けている人にティモシー・リアリーという人がいるんです。故人なんですが、彼は元ハーバード大学心理学教授で'80年代はヒッピーカルチャーの指導者だったんです。彼もゲーム制作に関わっていたことがあるし、機会があればまた参加してみたいですね。
――具体的にはどんなゲームを作ってみたいですか?
坂本 僕は、もっとインターネットとゲームがインテグレート、つまり融合していくことに興味がありますね。たとえばネットワークゲームとひとことで言っても、ネットワーク空間に人が集まるだけじゃないでしょ? ネットワークを使って、たくさんの人の力を使うことで問題を解決する。そんなゲームがあってもいいと思うんです。ひとつのコンピューターでは計算しきれない問題を、みんなのコンピューターを使って分散して計算する。そうすると、集合したときには壮大な計算ができている。これがネットワークの正しい使い方だと思うんです。
――ものすごいCGも、分散して計算すれば作りやすいかもしれませんよね。
坂本 そうだよね。小さく分散して計算させておいて、それを集合させる。そうすればものすごい計算ができていることになる。うん、そうだな。これからのネットワークのキーワードは "分散" だな。メモしておこう(笑)。


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教授の予言した「分散」、まさに現代のネットワークを象徴してますね。
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  • 2010.05.30(Sun)
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